「光る君へ」道長の父・藤原兼家が女性を口説くためにした猛烈アプローチ

 大河ドラマ「光る君へ」第9回目は「遠くの国」。花山天皇の退位に向けて暗躍する藤原兼家(藤原道長の父)の姿が描かれました。

 兼家には、藤原道隆・道兼・道長という「藤原三兄弟」を産んだ正室・時姫(藤原中正の娘)がいましたが、もう1人、有名な妻がおりました。それが「藤原道綱母」です。ドラマにおいてはこの「藤原道綱母」を藤原寧子として、女優・財前直見さんが演じています(そして、寧子の息子・道綱を俳優・上地雄輔さんが演じています)。

 さて、「藤原道綱母」 が執筆した著名な日記が『蜻蛉日記』です。全3巻あり、天延2年(974)頃に成立したと考えられています。日記は、「柏木」と呼ばれた貴いお方(これが兼家)から、まだ若い「道綱母」が「色良い返事」を求められるところから始まります。

 「道綱母」曰く、普通であれば、このような時は仲立ちしてくれる伝手を求めたり、下々の女を通して接触してくるものなのに、兼家は違ったそうです。兼家は直接、「道綱母」の父(藤原倫寧)に向かって、娘との交際を「冗談なのか真面目なのかよく分からない感じで」伝えたのです。当然、藤原倫寧は「けしからん」ということで、兼家の要求を跳ね除けます。それで諦めてしまう人もいるかもしれませんが、兼家はそんな男ではありません。更にアプローチをかけてきたのです。

 ある日、突然、早馬に乗った男(使者)を、倫寧の邸に寄越したのです。そんなことで、邸は大騒ぎとなったとのこと。早馬の男は、兼家の和歌を持ってきたのです。「道綱母」は兼家は、比類のない字の上手さだと聞いていたようですが(そうした噂があったのでしょう)、蓋を開けてみると、(これが本当にそうなのか)と思われるほどの、とんでもない悪筆だったということです。

 兼家の和歌は

「音にのみ 聞けば悲しな ほととぎす こと語らむと 思ふ心あり」

(あなたの噂を聞いているだけで、お会いできないのは残念なことです。是非、お会いしてお話したいものです)

というもの。要は「とりあえず一回、会おうよ」ということですね。

 「道綱母」は返事をしようか迷ったそうですが、人の勧めもあり、返歌することにします。

「語らはむ 人なき里に ほととぎす かひなかるべき 声なふるしそ 」

(貴方が語らうに相応しい相手などいない人なき里で、甲斐なく鳴いて、声をからすのはおやめなさい、ホトトギス)

 「いくらアプローチしてきても無駄ですよ」という交際お断りの和歌です。これまた普通の男ならば、ここで心が折れて諦めてしまうでしょうが、兼家は以後も便りを何度も寄越します。まさに「鋼のメンタル」というべきでしょう。

※この掲載記事に関して、誤字脱字等の修正依頼、ご指摘などがありましたらこちらよりご連絡をお願いいたします。

  この記事を書いた人
濱田浩一郎 さん
はまだ・こういちろう。歴史学者、作家、評論家。1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。 著書『播 ...

コメント欄

  • この記事に関するご感想、ご意見、ウンチク等をお寄せください。