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今読むと面白い明治時代の翻訳  外国人も日本名に変換

 明治時代の翻訳は今とはまったく異なります。そもそも、江戸時代には話し言葉と書き言葉が全く違うものでした。その後、明治に入ると外国の文章が輸入され、それらを訳すため翻訳者たちの試行錯誤が始まりました。

 一方、当時は著作権などがあいまいな時代だったため、「翻訳」どころか「書き換え」が公然と行われました。中には原作とまったく別の物語に仕上がることもあったとか…。

外国人名を日本名に変換

 文明開化とはいえ、明治時代の庶民にとって、西洋文化はまだまだ未知の領域でした。小説の西洋人の名前をみても、それだけで男か女か判断がつかないのです。(そのため外国映画の紹介では、女優名の最後に「嬢」をつけて区別しました。)

 そこで翻訳家たちが考え出したのが、舞台は外国でも、名前は日本人名に変換することでした。

ネロとパトラッシュは清(きよし)と斑(ぶち)

 有名な『フランダースの犬』の主人公の名前はネロ、相棒の犬はパトラッシュ。現代ならほとんどの人が知っている名前です。

 しかし、明治時代の人には西洋名は理解しづらく、そのため日本初の『フランダースの犬』日本語訳ではネロを清(きよし)、パトラッシュを斑(ぶち)と訳されました。

 名前を変えるだけで、風車が回るベルギーの風景から、水車の回る日本の田園風景にイメージが変わってしまいますね。

もはや創作!書き換え翻訳

 黒岩涙香は明治時代に活躍したジャーナリストであり、翻訳家でした。今も読みつがれている『鉄仮面』や『巌窟王(がんくつおう)』は、彼の翻訳によって日本で有名になりました。

 涙香はみずからの新聞「萬朝報(よろずちょうほう)」の読者向けに娯楽小説として『鉄仮面』を連載します。しかしこの翻訳は、外国人名を日本人名にするどころか、なんと結末さえも変えてしまったのです。

 ほかにも、原作では「ビロードの仮面」とあるのに、涙香は勝手に「鉄仮面」に書き換えてしまうのですが、後に原作を確認した人によると、涙香の書き換え翻訳の方がドラマチックで面白かったのだとか。

忘れられた小説が日本で出世

 明治時代には、さまざまな洋書が知識人の手によって翻訳され、人々に紹介されました。しかし中には、本国で忘れ去られた小説や、脚色が施されて原作がわからない小説もあったようです。

 最初はネロを「清」、パトラッシュを「斑」と名付けられてしまった『フランダースの犬』ですが、この小説は本国ベルギーでは忘れられた存在となっていました。

 それが、現地を訪れる日本人観光客の影響で、はじめて本国ベルギーでも認識されるようになったのだとか。

 また、黒岩涙香の『幽霊塔』も、本国イギリスでは原作が忘れ去られたため、長い間、幻の原作と言われていました。しかしその後、研究者たちが原作にあたるイギリスの小説『灰色の女』を発見し、再販されるようになりました。

まとめ

 日本の翻訳の歴史をのぞいてみると、原作の書き換えなど、今では考えられない状況もありましたが、それでも翻訳者たちの試行錯誤によって、多くの物語や知識が日本語で読めるようになったのですね。

 また、翻訳によって原作の国よりも日本で有名になった物語が逆輸入されるといった現象がおこるのも面白いですね。

参考
『明治大正翻訳ワンダーランド』
『幽霊塔(宮崎駿)』

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  この記事を書いた人
日月 さん
古代も戦国も幕末も好きですが、興味深いのは明治以降の歴史です。 現代と違った価値観があるところが面白いです。 女性にまつわる歴史についても興味があります。歴史の影に女あり、ですから。

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