「泣く子はいねが~ …」ホントは怖くない!?今さら聞けない、ナマハゲってどんな存在?

 「ナマハゲ」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか。その姿や声から鬼のように恐ろしい存在として広く知られています。

 けれど、地元の人々は昔からナマハゲを愛しているようです。秋田県男鹿市の伝統民俗行事として伝わる来訪神ナマハゲ。人々にとってどんな存在なのでしょう。由来と行事の中に見えるナマハゲ愛を探ってみましょう。

ナマハゲとは

男鹿半島

 ナマハゲは秋田県男鹿半島を中心に行われる大晦日の民俗行事です。日本海側にぽこっと突き出ている男鹿半島は、本山、真山、寒風山の男鹿三山がそびえています。かつてこの辺一帯はお山と呼ばれて霊場視され、修験の地でもあったようです。

ナマハゲの起源は諸説あり

 最も古い記録は江戸時代の紀行家菅江真澄が文化8年(1811)に男鹿を訪問した時のことを書いた「牡鹿乃寒かぜ」にあります。

 ナマハゲは民間伝承であるため、正確な起源はわからないようです。民俗学は庶民の生活からの観点なので、定かでないことが多く、ナマハゲもまた諸説ある存在です。

1、漢の武帝説
 漢の武帝が五匹の鬼をしたがえて男鹿に上陸した。鬼たちの悪戯に手をやいた村人たちは、「毎年ひとりずつ娘を差し出すかわりに、門前から五社堂まで一千段の石段を作ること」を約束させる。九百九十九段まで積み、もう少しでできそうなのを見て、人々は天の邪鬼にたのんで鶏の鳴きまねをさせる。夜が明けたのかと思って鬼が山に逃げ去り二度と村に降りて来なくなった。

…という話。その鬼の伝説と絡めて来訪神であるはずのナマハゲを鬼面にしたのかもしれないそうです。

2、修験者説
 男鹿の山から修験者が吹雪の中、山伏の凄まじい恰好で村に下りてきた。

 上記の他にも山の神説、漂流異邦人説などがあります。(省略)

ナマハゲの語源

 「火斑(ナモミ)を剥ぐ」という言葉が訛ったものと云われています。ナモミとは炉端にかじりついていると手足にできる火型のこと。それを剥ぎ取って怠け者を戒めるのがナマハゲなのです。

ナマハゲは豊作、豊漁の来訪神

 男鹿地方の人々にとってのナマハゲは、雪深い本山や真山から年に一度下りてくる来訪神です。豊作豊漁をもたらす神で、家族や地域に幸福をもたらしてくれる大切な存在です。鬼ではありません。

大晦日のナマハゲ行事

 大晦日の夜、年に一度ナマハゲは山から村里に下りてきて各家庭を巡ります。悪事に訓戒を与え、厄災を祓い、豊作・豊漁・吉事をもたらすための民俗行事です。日本海からの寒風は体の芯まで冷えますから、ナマハゲもかなりの覚悟がいるのではないでしょうか。

 地域によって段取りが違うようですが、今回は真山地区を取り上げます。

ナマハゲ行事の流れ(例:真山地区)

1、真山神社に集合
 ナマハゲ衣装に着替えて出発。お面・ケデ(藁で作った蓑)・ハバキ(藁で編んだスネあて)・藁靴。

2、家々を訪問
 先立(さきだち)と呼ばれる人が事前にナマハゲを家に入れてよいかを、訪問先の人に確認します。
突然家に入ってくるのかと思いきや、意外と丁寧なのです。

3、家にナマハゲが入る。
 常套句である「泣く子はいねがー」「嫁は早起きするがー」「怠け者はいねがー」などと大声を出し家じゅうを歩き回ります。

4、主人はナマハゲをなだめて、料理や酒でナマハゲをもてなします。
 家族の様子や田畑の作柄、漁について問答を交わします。

5、翌年の無病息災や豊作、豊漁を祈願し、四股を踏みます。

6、「新しい年もまめで過ごせ」「親の言うことを聞かないと連れて行くぞ」などと戒めて、次の家に向かうのです。

 ここで興味を引くのは、ナマハゲの残したケデ(蓑)のワラを、家の人たちが大事に拾い集めることです。そのワラを病人の患部に巻き付け疾病平癒に、また無病息災を祈るお守りとしているそうです。頭に巻くと一年間、頭痛がしなくなるらしいので、ご利益があります。今も昔も平穏であることへの願いは変わりませんね。

ナマハゲの愛

 ナマハゲの面は地域によって違います。角のない面もあります。とはいえ、どの面も怖いことには変わりないです。恐ろしいからこそ、そこに本当の愛があると思われます。

ナマハゲの定番の声掛けは

「泣く子はいねがー、親の言うこと聞がね子はいねがー」
(訳:泣いている子はいないか。親の言うこと聞かない子はいないか)

です。怖い姿と大声に子供たちは、この世の終わりのように大泣きします。

 現代ならば「ゲームばっかりしてる子はいねがー」と叫ばれているかもしれません。嫌われるような悪態をつきながらも、子供たちの成長を育んでいるのでしょう。

 またナマハゲは若いお嫁さんのことも気になるようです。「ここの家の嫁は早起きするかー」と大声を出します。お嫁さんはびびってしまいますよね。確かに荒い言葉ではありますが、嫁いだ家に馴染んでいるか、泣いてばかりいないかという優しさなのかもしれません。

 家じゅうで大騒ぎのナマハゲですが、去った後は家族の心が穏やかになる行事なのでしょう。そこに、ナマハゲ愛があると思われます。

おわりに

 近年秋田には「超人ネイガー」というご当地ヒーローがいます。一見、懐かしの仮面ライダーに似ていて、郷土秋田を盛り上げているようです。その「超人ネイガー」という名の由来はナマハゲにあります。ナマハゲがよく言う「なぐ子はいねがー」の「ねがー」という語尾からきたそうです。地元の子供だけでなく大人にもかなりの人気のようです。

 また、人々にとって

「悪いことをすると、ナマハゲがくるぞ」
「良くない状況だけど、ナマハゲが守ってくれている」

など、普段の生活の中でもどこかで自分を戒めたり応援してくれる存在のなのだと思います。

 神というより親戚の少し苦手なおじさん的なイメージもありそうです。訛った言葉もまた郷土への愛を醸し出しているのでしょう。

 今回はナマハゲを取り上げました。全国各地の民間信仰や年中行事はそこに生きた庶民の歴史でもあります。平穏な日常生活を望む庶民の想いはいつの世も変わりませんね。

<補記>
・「男鹿のナマハゲ」重要無形民俗文化財 昭和53年(1978年)
・ユネスコ無形文化遺産「来訪神:仮面・仮装の神々」として登録 平成30年(2018年) 


【主な参考文献】
  • 岩崎敏夫『東北の山岳信仰』岩崎美術社(1984年)
  • 富木隆蔵『日本の民俗 秋田』第一法規出版(1973年)
  • 武内信彦『怠け者はいねが~男鹿のナマハゲ』石油技術協会誌第77巻(2012年)
  • 男鹿市 なまはげ館 公式HP

※この掲載記事に関して、誤字脱字等の修正依頼、ご指摘などがありましたらこちらよりご連絡をお願いいたします。

  この記事を書いた人
さとうえいこ さん
○北条政子に憧れて大学は史学科に進学。 ○俳句歴は20年以上。和の心を感じる瞬間が好き。 ○人と人とのコミュニティや文化の歴史を深堀りしたい。 ○伊達政宗のお膝元、宮城県に在住。市民ライターとして地元の魅力も発信中。 ○息子(既に成人)の使わなくなった日本史の教科書を  捨てられずにリビン ...

コメント欄

  • この記事に関するご感想、ご意見、ウンチク等をお寄せください。
日月
先日、テレビで「カーペットが汚れるから、なまはげを家に入れたくない」というコメントをみかけ、風習が廃れそうで少し心配です。
2022/11/15 13:42