【麒麟がくる】第8回「同盟のゆくえ」レビューと解説

信長とはどんな男か見てきてほしい、と帰蝶に言われ、信長の顔を見に尾張までやってきた光秀。帰蝶の言葉のままにのこのこと尾張まで繰り出している時点で、「止めてほしい」という帰蝶の思いはくじかれています。

今回は、帰蝶が覚悟を決める回でした。そして美濃と尾張の同盟を知った今川は、三河の松平広忠を動かします。

光秀と帰蝶、そして駒の存在

今回、光秀の帰蝶に対する思いが初めて少しだけ表に出ました。

「国のためには織田信長に嫁いでほしい、でも……」という複雑な感情を見せました。それを言葉として引き出したのは駒でした。「帰蝶さまを行かせたくなかったのではないですか?」という問いかけに、光秀は「そうやもしれぬ」と小さく答えました。

前回のレビューでも述べたとおり、こういう恋愛感情に踏み込んでいけるのは駒しかいません。

駒は帰蝶に対しても、「帰蝶さまは今でも十兵衛さまをお好きでございましょう?」と尋ねます。「好きなの?」と直接的な言葉で聞けるのは、やっぱり駒が庶民だからです。好き嫌いで結婚相手を選べない武家の人間にはとてもできない質問です。

いろんな人の感想を見ていると、オリジナルキャラクターの駒はちょっと異質な存在で、「必要なの?」という意見もちらほら見かけますが、武家社会とは一歩も二歩も離れた立ち位置にある駒の存在は、ちょっと価値観が現代人寄りであり、ドラマの中で描かれる戦国時代の価値観と視聴者をつなぐためには必要な存在なのだと思います。

前回と今回、こと恋愛・結婚の考え方においてはとくにそう感じました。

義龍(高政)はやっぱり担がれただけ?

結婚を嫌がっていた帰蝶を見事説得してみせた光秀。道三はめちゃくちゃ喜びます。でも忘れてはならないのは、帰蝶の兄・義龍は同盟にも結婚にも反対していたということ。

道三への報告を済ませたあと、すぐさま義龍陣営に呼び出される光秀。義龍、当然起こっています。裏切ったな、と。

義龍はそのまま国人衆と光秀を引き連れ、土岐頼芸のもとへ。どれだけ国を思っているか、主君の前で熱く語りますが、頼芸にはあまり響いてないようで……。頼芸はさっさと寝たいと言って稲葉良通を連れて座を離れてしまいます。

義龍の面目は丸つぶれ。前回から、道三のやり方に不満をもつ国人衆を集め、まとめている感を出していましたが、今回の様子を見るかぎり「担がれているだけ」というのが正しそうです。

頼芸も口では「頼りにしている」と言っても、「こいつを利用してうまくいけばラッキー」くらいにしか思ってなさそうですね。どちらかというと、良通のほうが頼芸に近そうです。

子どものころ、帰蝶が十兵衛にあげようととっておいたお菓子を勝手に食べて、おそらく好かれてはいないであろうお兄ちゃん。上に下に利用され、妹には好かれず、今のところあまりいい部分がありません。

国を思って行動を起こしたい、という気持ちはよくわかりますが、空回りしています。父を嫌うあまり、実父は頼芸だと思いたいようですが、母・深芳野の反応を見る限り父は道三のようです。

深芳野は「それ(父が頼芸だということ)を盾として殿に立ち向かうのはよしなされ」と釘をさしますが、どうもこの様子だと、「守護の血筋」を盾にすることでしか道三に対抗するのは難しそう……。

尾張に嫡男が人質に取られているのに

一方、美濃と尾張の同盟を聞きつけた今川も動きます。今川義元は、三河の松平広忠を呼び、「松平家の汚辱をはらすのは今ぞ!」と尾張攻めを命じます。今尾張では嫡男の竹千代が人質に取られているのですが、これは嫡男を見捨てよ、と言っているようなもの。

東に今川、西に織田、と怖くて強い奴に取り囲まれ、状況によって今川へ、織田へ。第8回時点では今川についています。さて、広忠はどうするのか。

次回予告では、竹千代の母・於大の方の兄・水野信元が菊丸になにか命じているシーンがちらっと見えました。いよいよ菊丸の正体も判明しそうです。

「菊丸=服部半蔵」説が有力でしょうか。半蔵といっても、年齢から考えて初代のほうでしょうか。または別の、オリジナルの忍者の可能性もありますが……。

「光秀が申すのじゃ、是非もなかろう」

帰蝶は光秀の口から「尾張へ行け」という言葉を引き出し、「光秀が申すのじゃ、是非もなかろう」と覚悟を決めて嫁いでいきました。「光秀がそう言うなら、仕方ないね」と。

「是非もなかろう」。また出ました。この言葉、本能寺の変の折、謀反人が光秀と知った信長が、「是非に及ばず」と言った、と言われています。『信長公記』に見られる言葉です。

いろんな解釈がありますが、森長定(成利/乱/蘭丸)が「明智の軍勢と見受けます」と言ったのに対して「やむを得ぬ(是非に及ばず)」と言った、ということで、「光秀が謀反を起こしたのなら、仕方ない、もはやこれまで」という解釈が一般的でしょう。

この信長最期の言葉を、物語序盤で妻にも言わせる。これまたたまらん演出ですよね。

次回、煕子登場

帰蝶と信長は、予告を見た感じではいい関係を築けそうです。さて、次は光秀自身の結婚ですね。光秀の妻は生涯ひとり(前妻がいたという説もあるが)とされていて、妻との仲睦まじいエピソードもいろいろあります。

木村文乃さん演じる光秀の正室・妻木煕子は、『妻木氏系図』によれば土岐頼照の子孫で、光秀と同じく土岐氏の流れを汲む一族出身とされています。妻木氏は美濃の土豪です。

司馬遼太郎の『国盗り物語』では光秀の正室を「お牧の方」としていて、実は「煕子」で定着したのはわりと最近のこと。逸話以上のことはほとんどよくわかっていない人物です。

木村文乃さんは「妖精のような女性」という印象を抱いたそうですが、「麒麟がくる」ではこれからどのように描かれるのでしょう。




【参考文献】
  • 『国史大辞典』(吉川弘文館)
  • 奥野高広・岩沢愿彦・校注『信長公記』(角川書店、1969年)

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  この記事を書いた人
東滋実 さん
大学院で日本古典文学を専門に研究した経歴をもつ、中国地方出身のフリーライター。 卒業後は日本文化や歴史の専門知識を生かし、 当サイトでの寄稿記事のほか、歴史に関する書籍の執筆などにも携わっている。 当サイトでは出身地のアドバンテージを活かし、主に毛利元就など中国エリアで活躍していた戦国武将たちを ...

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