合戦の準備は大変!出陣の支度や作法にはどんなものがある?
- 2021/06/07
戦国の合戦シーンは映画やドラマでよく描かれますが、その多くは行軍の様子や実際の合戦ばかりで、武士たちが合戦の前にどのような準備をするのかはよくわかりません。実際のところ、合戦は「思い立ったらすぐ出陣!」というわけにはいきません。命をかけた戦いをする場へ向かう武士たちはどのように戦支度を整えたのか、順を追って紹介しましょう。
陰陽道で吉日を占う
戦場へ向かうということは、命をかけるということ。出陣する武士たちは出陣の作法を大事にしました。この作法は武家の流派によっては違いがありますが、細かく決まりがありました。まず、出陣の日取りを陰陽道で占うことから始まります。生きるか死ぬかの場に赴くので、とにかく縁起を担ぐのです。
陰陽道というと平安貴族が日常から頼みにしていた占いというイメージがありますが、武家社会においてもこと出陣に際してはこの神聖な儀式を重んじており、中国陰陽道思想に基づいて行われました。
中国からもたらされた兵書『孫子』『呉子』などは、天文学や気象学、さらに日時や方角などが吉凶にかかわることを記しています。軍略と同じくらい、この暦や方角を占うことが重要視されていたのです。
占うのは出陣の日時だけでなく、合戦の吉日も陰陽道で決めました。この日程に関しても縁起を担ぎます。ある武家では、先祖が勝利した日や時間帯を重視し、同じ日程で行うことにこだわったとか。
一般的には吉日や悪日に決まりがあります。吉日は春が庚申……というように、季節によって分けられています。悪日は、陰陽道でいう「往亡日(おうもうにち)」がそれにあたります。1年に12日ありますが、これが凶日として旅行や結婚などを忌むべき日とされています。当然戦でも悪日とされました。
どうしても出陣を吉日にできず悪日になってしまう場合は、唱文を唱えながら出陣したのだとか。出る門の方角が悪ければいい方角のところまで歩いてから馬に乗ったともいいます。
身支度を整える
出陣の身支度も大事な作法のひとつです。これは家によっても順番が違うことがあり、武家社会全体で決まっていたものではないようです。大体は、大口袴を着用し、水干を身に着け、籠手と脛あてをして水干の袖をおさめるという内容。身に着ける衣以外にも、太刀、甲、矢、敷皮、はちまき、軍扇といった武具があります。
軍扇・軍配団扇
軍扇や軍配団扇は映画やドラマでよく見ますよね。軍配団扇は大相撲の行事が使っているあれです。軍扇(ぐんせん)
陣中で指揮をとるための扇です。基本的に骨が黒漆塗りで、地紙には表に日の丸を、裏に月を描いています。
日月星辰の図柄は朱や金で塗られました。この軍扇にも家によっては、骨はいくつ分開くとか、日の丸の昼を表にして使うとかいう細かい決まりがありました。
夜戦の場合は夜を表にしたようです。戦によっては忌日にあたることもあり、そういう場合は昼と夜を逆にして軍扇を使用し、忌を避ける方法としていました。
軍配団扇
軍配団扇は、黒を基調とする団扇で、日の丸か「卍」字を記しました。これを使うのは、戦の吉日や方角を定める人物で、天文学・気象学に長けた者。「軍配者」と呼びますが、この役割を持つ者が軍の配置などを指揮しました。
ここまで紹介すると思い当たる役割がありますよね。そう、「軍師」です。山本勘助や竹中半兵衛、黒田官兵衛といった軍師。彼らは戦における「参謀」というイメージがありますが、実は軍師という役割はなかったとか。研究者によっては軍配者が軍師の本当の姿である、という人もいれば、軍配者とは別に軍師がいた、という人もいます。
出陣前の軍盃
出陣前、身支度を整えたら三種の肴と三献で軍盃の宴を行います。三種の肴
内容は、「あわび(打鮑)」「勝栗」「昆布」の三種です。ここまでとことん縁起にこだわってきたことからわかるように、これもゲン担ぎ。「打って勝って喜ぶ」という意味が込められています。出陣時と帰陣時の二度行う儀式です。三献
三献は今でいう結婚式の三三九度と同じで、初献は三度入れ、二献はまず一度、そして二度、三献めは三度となっています。よくドラマでは盃を乱暴に扱って投げるなどの場面が描かれますが、実際の軍盃は緊張感をもって行われるので、そのようなことはありえませんでした。最初から最後まで縁起を担ぐ
細かく紹介すればまだまだ作法の決まりがありますが、ここで紹介した内容だけでも1から10まで縁起を担ぐ作法であることがわかります。軍盃が終わりいざ行軍、という段階になっても、馬がいなないたら最初からやり直すだとか、身支度が整って主殿から出る際、装備が建具に触れたらやり直しだとか、そこまでやるのか……と驚くような決まりがあるのです。ドラマで見るような、出陣に際して馬が大きくいななくようなことは忌むべきものだったのです。
このようにして、戦の日取りを占うことから身支度、軍盃を経てやっと出陣。戦は生きるか死ぬかの世界で大変なことでしたが、その準備も細心の注意を払って緊張感をもって行われていました。戦は始まる前も大変なのです。
【参考文献】
- 西ヶ谷恭弘『戦国の風景 暮らしと合戦』(東京堂出版、2015年)
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