刀にはこんなにパーツがある!日本刀の構造解説
- 2021/11/24
「武士の魂」と呼ばれる日本刀。往時はもちろん重要な武器でありましたが、やがて武士道の思想を象徴する神聖なものと捉えられるようになります。刀身そのものの完成された美はもとより、それを包み・支え・守り、剣士が実際に使うことができるようにするための外装にも多くの工夫と工芸技術の粋が凝らされています。
このように、単に「刀」といっても分解すると実に多くのパーツで構成されていることがわかり、それぞれに深い見どころが溢れているのです。本コラムでは、江戸期以降に武士の「大小差し」として制式化された「打刀(うちがたな)」という、帯に差すタイプの刀を例にしてそのパーツ構成を見てみることにしましょう。
このように、単に「刀」といっても分解すると実に多くのパーツで構成されていることがわかり、それぞれに深い見どころが溢れているのです。本コラムでは、江戸期以降に武士の「大小差し」として制式化された「打刀(うちがたな)」という、帯に差すタイプの刀を例にしてそのパーツ構成を見てみることにしましょう。
刀身の解説
刀身(とうしん)
いわずと知れた刀の本体です。切断部位のある刃と、グリップの芯として柄に収まる部分である「茎(なかご)」があります。刀の長さは刃の部分だけを表し、茎には製作者の「銘」や、刀そのものに名付けられた「号」などを刻むことがあります。また、刀身には彫金が施されることもあり、梵字や俱利伽羅龍など、武人の守護を祈るものが多くなっています。
鎺(はばき)
鎺とは刀身の手元寄り、鍔の直上に取り付けられる金具です。鞘の入り口である「鯉口(こいくち)」の径よりもわずかに大きいことで、納刀状態で刀が鞘から抜け落ちないよう止める機能をもっています。金や銀、赤銅などで作られ、ここにも家紋などの装飾を施すことがあります。
次に刀剣の外装である刀装をみていきましょう。
刀装の解説
鍔(つば)
刀身と柄の間に設置される、円盤状あるいはプレート状などを呈する部品です。敵の斬撃から自身の手元を守る「シールド」であり、逆に手が刀身へと滑って自ら傷を負わないための「留め」でもあります。形状も実に多岐にわたりますが、刀装具のなかでもとりわけ装飾性への自由度が高く、彫金や象嵌など金工芸術の粋が用いられたものが多くあります。これだけをコレクションする愛好家もおり、実用的な意味だけではなく刀の品位にも大きく影響する重要な部品です。
柄(つか)
刀のグリップのことですが、特徴的な菱形模様をイメージするものの内部構造はあまり知られていません。柄は基本的に木材を芯材として、その上に「鮫皮」をかぶせ、「目貫」と一緒に柄糸を巻き、柄頭や鍔元に金具を取り付けます。刀の茎には「目釘穴」という穴が開けられており、柄にもその位置に合わせて穴を開け、竹などで作った「目釘」を通して両者を固定します。
鮫皮とは、サメではなく「ガンギエイ」という南方産のエイの皮のことで、現在ではわさびおろしに使われているのを見ることができます。顆粒状の細かい突起が美しく、滑り止めにもなるため刀の柄に重宝されました。
目貫とは柄の両側に設けられる植物や動物などの意匠を用いた金具で、古い時代にはこれで刀の茎と柄を固定したといいます。やがて固定は目釘のみで行われるようになり、装飾性が優位なものとなりますが、柄を握ったときのバランスに影響するという説もあります。
柄巻は糸や皮などで行いますが、その巻き方には様々な種類があります。日本刀独特の菱形模様が目を引き、その盛り上がった部分の芯には三角形に折り固めた和紙などが使用されます。柄頭や「縁金(ふちがね)」と呼ばれる鍔元の金属部品にも、装飾が施されたものが見られます。
切羽(せっぱ)
「切羽詰まる」の語源になったとされるこの金具は、ほとんど目立ちませんが刀を構成するうえで欠かせない重要なパーツです。刀身の断面型の穴が開いた、小さく薄い二枚一対の小判状の部品であり、一枚は柄の上部と鍔との間に、もう一枚は鍔と鎺との間にそれぞれ取り付けます。
これは柄・鍔・鎺という部品がしっかりと刀身と合致して、がたつきなどを起こさないようにテンションをかけるために用いられるものです。
しっかりと組み合わさった刀は振っても「チャキッ」という音はしないものです。しかしいずれかの部品が緩むとそういった音がするようになり、刀身が柄から抜けて飛び出たりすることがあるなど、大変危険です。切羽はそのようなことがないよう、各パーツを締める大切な役割を担っています。
鞘
鞘は、刀身を収納するだけではなく腰に差したまま容易な携帯を可能とし、しかも埃や湿度などにも一定の防御機能を有しています。材質には軽くて粘りがあり、油分は少なくてしかも反りにくい性質の「朴(ほお)」の木がよく使われます。打刀の場合は表面に黒漆や朱漆を塗って仕上げることが多いですが、金蒔絵や螺鈿などの装飾も施されます。
腰に差した際の外側にあたる部分、帯の上あたりには「栗形(くりがた)」と呼ばれる半月状の突起が設けられています。これには長軸に向かって細長い穴が開いており、「下緒(さげお)」という紐を通せるようになっています。
下緒は組み紐であることが多く、鞘が帯から落ちないように止めるだけではなく、敵を捕縛したり止血に使ったりと、様々な用途をもつアイテムでもあります。
また、打刀の鞘には「返角(かえりづの)」という角状の突起をもつものもあります。これは帯の下側に引っ掛かり、容易に腰から抜き取れないようにするためのストッパーの役割を果たします。
さらに、柄には鯉口の両側に「小柄(こづか)」という小型ナイフのようなものと、「笄(こうがい)」という先の尖った昔の整髪道具を収納するソケットが設けられることもあり、様々な機能をもっていたことがわかります。
おわりに
博物館や美術館では刀身の展示がメインになる場合も多いですが、これら刀を構成するパーツにも、ぜひ注目してみてください。思わぬような細かい造形や、見えないところへの美的センス等々、たくさんの見どころでさらに刀剣鑑賞が楽しくなりますよ!【主な参考文献】
- 『歴史群像シリーズ【決定版】図説 日本刀大全Ⅱ 名刀・拵・刀装具総覧』歴史群像編集部編 2007 学習研究社
- 『図鑑 刀装のすべて』 小窪 健一 1971 光芸出版
- 『別冊歴史読本 歴史図鑑シリーズ 日本名刀大図鑑』本間 順治監修・佐藤 寒山編著・加島 進協力 1996 新人物往来社
- 『日本刀 職人職談』 大野正 1971 光芸出版
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