今や物流の中心となった「通信販売」。その草分けは?

 ついつい買い過ぎたり商品が届かなかったり、画像とかけ離れた商品が届いたりなど、色々と弊害も聞きますが、それでも便利な通信販売はいつごろから始まったのでしょうか。

そもそも通信販売って?

 消費者庁/特定商取引法ガイドによると、通信販売とは

事業者が新聞、雑誌、インターネット等で広告し、郵便、電話等の通信手段により申込みを受ける取引のこと。「電話勧誘販売」に該当するものを除きます。

だそうです。

 日本での元祖通信販売は、文政年間(1818年~1830年)にお江戸の四ツ目屋が始めた「諸国よりの文通での御注文受け付けます。お届けの際は箱に入れ封もして配送いたします。飛脚を使っての迅速配送も、江戸以外の土地への配送も可能です」だそうです。

 この場合は「箱に入れ封もして」がミソで、実は四ツ目屋は大人のお道具を扱う店として江戸で評判の店でした。遠く離れた土地からでも目当ての品が手に入ると共に、顔を合わせずに買う事が出来るのも売りだったようです。

まず郵便制度の確立ありき

 海外の例ではイギリスウェールズのプライス・ジョーンズが、19世紀の中ごろにフランネルの生地を郵便注文受付で販売しています。また、19世紀末にはアメリカミネソタ州のリチャート・シアーズが、委託販売で売れ残った時計を売りさばいた経験を生かしてカタログ販売を思いつき、成功させます。これが後にシカゴのシアーズ・ローバック社に発展しました。

 日本では明治9年(1876)に農学者津田仙(つだせん)が、自身が創刊した『農業雑誌』で郵便注文受付により、アメリカ産トウモロコシの種を販売したのが最初と言われます。

 いずれも発送は郵便に頼るわけで、しっかりした郵便制度が確立されていてこそ成り立つ販売法ですが、直接店へ来られない地方の多くの消費者を取り込める画期的な商法でした。

宅配業者の草分けは小卒(小学校卒業)の少年たちだった

 日本では大正6年(1917)年創設の主婦之友社代理部の試みが、大規模な通信販売の草分けと言われます。カタログの代わりに雑誌の案内ページを使って商品を紹介。「営利を離れて読者の便宜を旨とし、実用的な品物ばかりを扱う」と謳っています。

 その言葉どおり、薬品・家庭用健康医療器具・化粧品・美容装身具・家庭用品・育児用品など、現在でも通信販売の花形商品が顔を揃えています。また婦人雑誌らしく、雛人形や五月人形も扱いました。

 同じころに野間清治経営の講談社代理部も通信販売に乗り出し、同社発刊の雑誌広告を通じて注文を受け付けます。講談社も主婦之友社も、わざわざカタログを作ったりせずとも自社発刊の雑誌で商品の紹介が出来るところに目を付けました。

 講談社も生活用品や雑貨・化粧品・薬品に清涼飲料水や食品など、多様な品目を扱いましたが、その特徴は配達手段でした。従来の他社のように郵便配達に依存せず、主に同社少年部が直接雇い入れた社員見習い待遇の少年たちが受け持ちます。彼らは日本全国からの応募者で、30倍ほどの高い競争率を勝ち抜いた心身ともに優良な小卒男子の少年たちでした。

 まだまだ貧しかった当時の日本、彼らは少しでも家計を助けようと自転車やオートバイに乗って、狭い路地まで走り回ります。現在の宅配業者の草分けと言えるでしょう。

百貨店も参戦

 やがて通信販売が有効な手段だと認めた百貨店が参戦して来ます。明治30年代に始まるとされ、高島屋・三越・白木屋・松屋・松坂屋などが続々と参入します。最初の頃は利便性よりも贔屓顧客へのサービスの面が強かったようです。

 百貨店の通信販売が大量販売と結びついたのは戦後で、高島屋では昭和29年(1954)に通信販売を本格化しますが、当初は都市部の店舗で売れ残った商品を値引きして地方へ売っていました。しかし都市と地方の情報格差が縮まるにつれ、この方式では自社のブランドイメージを落とすことに気付きます。

 地方の消費者からの不評や不満もあったのでしょうね。そこで方針を「通信販売とは中間業者を排除し、百貨店が責任を持って優良品をどの土地へも提供する事」に転換、他の百貨店も追随します。百貨店の参入は通信販売の信用向上に大いに貢献しました。

 昭和48年(1973)、当時売上高3兆円と言われた世界一の小売業、シアーズ・ローバック社が日本に進出、西武流通グループと提携を開始します。これは日本の販売業者にとって大きな脅威で、迎え撃った日本の業者は美しいカラー写真や洒落たデザインの商品カタログ作成に力を入れました。

 この流れはカタログ化した雑誌『ポパイ』や『通販生活』の創刊につながり、単なるカタログ誌ではなく、読み物としても楽しまれました。

 1970年代に始まったテレビショッピングは、販売業者の情報量を一挙に巨大化しましたが、1990年代後半に始まったインターネット通販の影響力には敵いませんでした。通信販売は通常では簡単に手に入らない海外の商品購入も可能にしました。しかし同時に顔を合わせての売買が躊躇われる商品、違法な商品の取引も可能にしてしまいました。

おわりに

 現在では都市部でも地方でもメインストリートでも狭い路地でも、宅配業者の人たちが荷物を抱えて走り回っています。効率的とは言い難い各戸配達ですが、これが通信販売の売りですからね。


【主な参考文献】
  • 木村茂光ほか『モノのはじまりを知る事典』
  • 消費者庁HP 特定商取引法ガイド 通信販売

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  この記事を書いた人
ichicokyt さん
Webライターの端っこに連なる者です。最初に興味を持ったのは書く事で、その対象が歴史でした。自然現象や動植物にも心惹かれますが、何と言っても人間の営みが一番興味深く思われます。

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