※ この記事はユーザー投稿です

ちょっとした雑学 煙草(タバコ)の歴史

 現代では”喫煙”という行為は「健康を阻害する」という理由で非常に嫌われています。煙草(タバコ)を吸う人は、どんどん喫煙場所が減っていくし、周りからも白い目を向けられたりして肩身が狭い、という方も多いでしょう。

 一体、タバコというのはいつから日本に存在し、どんな風に広まっていったのか。本当に害悪しかないのか、という点をあらためて検証してみましょう。

タバコが日本に入ってきた時期

 これには各種の説が存在しますが、最も確実なのは慶長年間にポルトガルの宣教師が徳川家康にタバコの種を献上した記録です。

 これによると、薬草に強い感心を持っていた家康はタバコの効用について詳細に聞き出し、記録を付けていたことがわかっています。つまり、江戸時代がはじまる直前あたりには、確実に日本にタバコは入ってきていたのです。

 タバコは熱帯地方が原産地なので多分、南米大陸が原産地と思われます。北米の原住民であるインディアンは既に喫煙の風習を持っており、インディアンがタバコを吸うと一気に顔色が悪くなったので、それを見たスペイン人は「これはよっぽど体に悪いものらしい」と記した記録が残されています。

 なんとまぁ、”正確な読み” であったことでしょうか。にも拘わらず、タバコはヨーロッパに瞬く間に広まります。体に悪かろうが、ニコチンの依存性は強く、一度吸ったら止められないからです。そしてポルトガルを経由して日本に入ってきた、と言う訳です。

ヨーロッパにおけるタバコの認識

 現代医学では完全に否定されていますが、タバコは当初、病気を治す効用があると信じられていました。かの有名なロビンソン・クルーソーの中にも、主人公が病気にかかった時にタバコを使って病気から回復する、と言う場面が登場します。ヨーロッパでは黒死病(ペスト)をはじめ、各種の感染病のパンデミックが発生してきましたが、「タバコを吸えば感染しない」という迷信が存在し、学校に行く前の子供にタバコを一服吸わせるなどの習慣があったことも知られています。

 ポルトガルの宣教師が家康にタバコの種を献上した時、果たして病気に効くという認識で献上したかどうかは分かりません。ですが、害悪しかないものを献上しようとは思わないでしょう。つまり、何等かの薬効があると信じていたからこそ献上したと考える方が自然です。

 家康がその後、タバコを常習的に用いていたという記録はありません。しかし、それからタバコは確実に日本中に広がって行ったのです。

江戸時代のタバコ

 徳川3代将軍・家光の時代、早くも「禁煙令」というものが発布されています。これは民衆の健康を心配したからではなく、農家が ”金になる作物” であるタバコの栽培に一生懸命になり、年貢米の栽培がおろそかになることを怖れたからです。

 しかし全く効果はなかったようで、4代・家綱の時代にも再三にわたって「禁煙令」が出されています。あまりの効果のなさに遂には諦めざるを得なくなり、5代将軍・綱吉以降はタバコは放置されることになりました。それほどにタバコは一般民衆の間に浸透していたのです。

 当時の農家は労働力を確保するため、”子だくさん” が当たり前でした。しかしあまりに子だくさん過ぎる場合は逆効果になってしまうので、大都市である江戸に10歳位で丁稚奉公に出されることがほとんどでした。

 少し話が横道にそれますが、自分の子供を丁稚奉公に出すと、親はいくばくかの金銭を得られます。つまり「こども=収入」であった訳です。現代の日本社会では子供を育てるのは「1人当たり2千万円」と言われます。つまり「子ども=支出」なのです。

 しかしアフリカ等の後進国では、現在でも女の子を小さいうちに結婚させて対価として報酬を得るとか、男の子を労働力として売る、ということが行われています。つまり「親から見れば収入」なのです。「後進国では子供は収入であり、先進国では子供は支出である」という現実は知っておいて損はありません。何かの役に立つかもしれませんから。

 さて、タバコに話を戻しましょう。

 丁稚奉公に出された子供は、最初はちょっとした使い走りなどに行かされます。これはお得意さん、仕入問屋の場所などに行かせて江戸の町を覚えさせるためです。そして訪問先では丁稚小僧さんが来ると、まず煙草盆を出すのが一般的な風習でした。

 これは「まぁ、まずは一服して下さい」という意味です。それを出された丁稚小僧は既に自分用のキセルを持っており、「では失礼」といって一服してから用件を伝える、というのが一般的な手順だったのです。

 つまり、10歳位で既に喫煙の習慣を持っていたということになります。この状況は江戸時代を通じて変わることはありませんでした。

未成年の喫煙禁止は明治33年から

 現在、私達が常識としている ”未成年者は喫煙禁止” というのは明治33年に出された「未成年者喫煙禁止法」という法律に基づいたものです。

 この法律が日本で初めてタバコに関して出された規制でした。しかしこの法が出されたのは、未成年者の喫煙は飲酒と並び、青少年の非行の温床になる懸念があるために出されたものであり、健康を心配してのものではありませんでした。

 実はこの法律は現在でも生きています。未成年者の喫煙禁止は明治33年に出された、この法律に基づいたものなのです。その後、健康増進法などが追加され、成年の基準が20歳から18歳に下げられましたが、明治33年に出された法律の正式名称は「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」となっています。

 つまり、未成年であるかどうかは関係なく、20歳未満の喫煙は、今でもこの法律により罰せられる可能性があるのです。ですので18歳になったら、未成年でないからタバコを吸えるとはなりません。新成人の皆さんは気を付けて下さい。へたすると明治33年に出された法律で罰せられるかもしれませんから。

タバコの害悪に対する認識

 江戸時代の一般庶民の平均年齢は40歳前後でした。これは7歳までに死亡してしまう幼児が多かったことが主原因ですが、まだ一般庶民が医療の恩恵が受けられない時代であったことも原因です。

 盲腸炎にかかれば死ぬしかなく、天然痘をはじめとする各種感染病も野放し状態であり、50歳まで生きられる人はとても運の良い人でした。ですので肺がん、肺気腫にかかる前に別の原因で死んでしまう人が多く、タバコの害悪は全く顧みられませんでした。むしろ ”一種のお洒落” として馴染んでいたというのが実態です。

 咳が止まらずに死ぬ病気はすべて「労咳(本来は結核を指します)」とされ、タバコがその原因であるとは誰も考えなかったのです。娯楽の少ない江戸時代においてタバコは数少ない「手軽な娯楽」であったのです。

 明治になり、大正~昭和を経ても、まだタバコの害悪に対する認識は甘く、高度経済成長の時代にはサラリーマンが自分の机の上に灰皿を置き、席に座ったままタバコを吸うのは当たり前のことでした。ジブリの「思い出ぽろぽろ」という映画には父親が家族の座っているテーブルでタバコに火を付け、「ふーっ」とテーブルに煙を吹きかけ、家族全員が副流煙にさらされる状況を描いていますが、それが悪いことだという認識は全く無かったのです。

 日本政府によるタバコの害悪に対する法規制は平成14年(2002)の健康増進法まで待たなければなりません。

タバコは本当に害悪しかないのか?

 今日、医師に聞けば必ず「タバコは百害あって一利なし」と断言します。本当にそうなのでしょうか?

 別に喫煙者を擁護するつもりはありませんが、少し調べてみると意外や意外、タバコにはADHD、強迫性障害、統合失調症、うつ病、アルツハイマー病に対する治療効果があることが確認されています。もちろん主成分のニコチンの作用です。しかしだからといってタバコを進めることは出来ませんのでニコチンを主体とした「ニコチン性アセチルコリン受容体作動薬」というものが開発され、使われています。

 また、ニコチンはドーパミン、アドレナリン、β-エンドルフィンという脳内物質の放出を促進する作用があるので、一時的な多幸感、認知能力の向上が発生します。”疲れた時に一服” というのは、こういった脳内物質が増加することにより一時的に疲労が緩和されるので、一応裏付けのある話ではあるのです。

 ですが、あくまで一時的なものですので、それに頼ると、”タバコを吸い続けないとやってられない” と言う状態になってしまいますので注意が必要です。往々にして激務である方ほど、ヘビースモーカーになる傾向が強いのは、この一時的な作用が主原因です。

タバコを法律で禁止することは出来ないのか

 健康増進法を制定する位ですから、タバコの害悪は日本政府も承知しているはずです。特に医療費の国費負担が増大し赤字状態の現在、「タバコはいっそのこと禁止にしたらどうか」という案が何度も提案されています。

 しかし、すべて国会に起案されることもなく、今日に至っています。それは何故でしょうか? 答えは実に簡単です。”タバコ税” が取れなくなるからです。

 現在、タバコ税は国税と地方税の両方がかけられており、それぞれが年間一兆円、つまり合計で二兆円という巨額な財源となっているのです。もしタバコを全面的に禁止してしまうと、この二兆円という税金が入らなくなってしまうのです。増税が必要になると、まず真っ先に挙げられるのが ”タバコ税” なのです。タバコを吸うような輩からはいくら取っても構わないといったところでしょうか。

 また、かつての米国の禁酒法と同じく、タバコを全面的に禁止したら、”闇タバコ” がはびこるであろうことは間違いありません。それは非合法な収益として反社会的集団の手に収まるでしょう。そういった事態を招かないためにもタバコの全面的な禁止は事実上、現在では出来ないのが現実なのです。

 「過ぎたるは及ばざるがごとし」と言います。あまりに性急にことを進めると、「過ぎたる」状態になってしまうのです。既に広まっている習慣を無きものにするのは容易ではないのです。時間をかけて少しづつ進めるしかないのです。

 タバコはナス科の植物です。同じナス科のナス・トマト・ジャガイモの葉っぱにはわずかながらニコチンが含まれています。実際、戦時中にタバコが入手できず、ナスのへたを乾かして吸っていたという話もある位ですので極微量ながらも喫煙と同じ効果があるようです。

 ですので、もしタバコが全面的に禁止になったら、ナスやトマトを栽培して葉っぱを収穫すればタバコのようなものが出来上がりますので、それを吸えばいい訳です。

 ですが、実際に試した方によると、物凄い味だそうです。そうまでして吸わなくても良さそうなものですが、どうしても、と言う方にはこういった奥の手もあるという意味で記載しておきます。もし吸う時は、お覚悟のほどを。

※この掲載記事に関して、誤字脱字等の修正依頼、ご指摘などがありましたらこちらよりご連絡をお願いいたします。

  この記事を書いた人
なのはなや さん
趣味で歴史を調べています。主に江戸時代~現代が中心です。記事はできるだけ信頼のおける資料に沿って調べてから投稿しておりますが、「もう確かめようがない」ことも沢山あり、推測するしかない部分もあります。その辺りは、そう記述するように心がけておりますのでご意見があればお寄せ下さい。

コメント欄

  • この記事に関するご感想、ご意見、ウンチク等をお寄せください。