【逸話 LINEトーク画風】秀吉の下積み時代、信長の草履取り(1558年)
- 2020/05/29
【逸話】信長の草履取り
- 【原作】『名将言行録』
- 【イラスト】Yuki 雪鷹
- 【脚本】戦ヒス編集部
そのころの信長は若く、夜ごと忍んで局(つぼね、=女部屋)に通っており、内々のことであるために草履取りだけを召し連れていた。そんなある日のことである。
━━ ある日 ━━━
秀吉
それがし、万事見習いたいゆえ、毎夜お供をしたいのですが・・
草履頭
うむ、もっともなことだ。いいだろう。
こうして秀吉は毎夜、信長の局通いにお供するようになった。
━━ 別のある日 ━━━
信長は毎夜秀吉がお供することを不審に思い、草履頭を呼んで問いただした。
信長
かような者(=秀吉)を毎夜お供にだすのは、古参の者どもが横着しているためであろう!
草履頭
はっ!しかし、(秀吉が)自分からたって願いでましたので、許可をいたしました。
こうして信長はやむなく、秀吉を供に召し連れることにした。
━━ また別のある日 ━━━
ある雪が降った夜、信長が局から帰るときに下駄をはくと、それが温かくなっていた。
信長
!!? わしの下駄に腰かけていただろう?不届千万な奴め!
こう言って信長は秀吉を怒り、杖で打った。これに対して秀吉は、
秀吉
腰かけてはございません。
・・と言葉を返すと、信長はさらに激怒した。
信長
嘘を申すな!成敗してくれる!!
さわぎを聞き、局のほうから女がでてきて秀吉の代わりに侘びをしたが、秀吉は「自分は腰かけてはいない」と言い張る・・・。
信長
むむうっ!下駄が温かいのがなによりの証拠であろう!
秀吉
寒い夜ゆえ、御足が冷えていらっしゃると思い、背に入れて温めておいたのでございます。
信長
・・・。では証拠をみせてみよ。
すると秀吉は肌を脱いでみせ、その背中には鼻緒の跡がくっきりとついていた。これに信長は秀吉の忠義のほどがわかり、すぐに草履取頭に命じたのである。
━━ またまた別のある日 ━━━
草履取頭なった秀吉は、そのあとも常にお供役を勤めていた。さらにお供待ちの際、他の頭たちは家の中に入って草履取りを外にだしておくのに対し、秀吉は自ら外にでて草履取りを家の中においていた。
こうしたことに気づいた信長は秀吉に訪ねた。
信長
そちがいつも外にいるとは一体どういうわけだ?
秀吉
このようなとき(=局通い)では戦場とちがい、お心もゆるむと存じます。今は乱世ゆえ、万一敵の忍びが狙っていないとも限りません。それゆえ私は外におります。
この言葉を聞き、信長はますます秀吉の忠義に感心したという。
ワンポイント解説
この逸話はドラマや小説などでも度々登場するもので、秀吉が信長に気に入られたきっかけといえばコレ!というエピソードですね。
本当にあったこと?
こういう出来事が本当にあったかというと、出典の初出が江戸中期の本であることを考えると信憑性に乏しいでしょう。
今回参考にしているのは『名将言行録』ですが、この逸話の初出は『絵本太閤記』という江戸中期の読本(よみほん)です。挿絵があって読みやすい本で、これは江戸初期に書かれた秀吉の逸話集『川角太閤記』をもとに書かれたとされています。
『名将言行録』に挿入された逸話はおそらくこれを参考に書かれたものでしょう。ちなみに、『名将言行録』は幕末から明治初期にかけて書かれたものです。
おもしろいのは、『絵本太閤記』と『名将言行録』を見比べると細かな違いがあることです。多くの人は、秀吉は「草履を懐に入れて温めていた」と記憶しているのではないでしょうか。
『絵本太閤記』には「寒気の時節は御草履を己が懐に入て温め」(『絵本太閤記』より引用)とあり、よく知られる内容と同じです。一方、『名将言行録』はどうかというと、上記の通り草履を背に入れて温めていたとあります。
この通り同じ話を書いていても本によって異なる部分が出てくるもので、多少脚色されたりするものです。
信憑性が低いからといって、まったくの噓っぱちとも言い切れません。時代を経ていろんな逸話集に書かれるなかでどんどん誇張され脚色されたかもしれないけれど、その逸話が何を言いたいのかを考えれば、丸っきり嘘とは言えません。
この逸話から読み取れること
じゃあ何が言いたいのかというと、秀吉は与えられた仕事を100%以上の気持ちで遂行し、その仕事ぶりを評価されて信長に認められたということです。
草履を温めたかどうかはともかく、低い身分で信長に仕えて認められ、出世していったことは事実です。本当かどうかはわかりませんが、寒い日に草履を温めようという機転は、人たらしの秀吉ならやりそうだなあと思うのです。
日記、手紙、発給文書のような一次史料に比べると軍記物や逸話集などは信憑性がぐっと低くなりますが、歴史上の人物の人となりを知る一材料にするとおもしろいと思います。
【参考文献】
- 『国史大辞典』(吉川弘文館)
- 『絵本太閤記』(『日本古典籍データセット』国文学研究資料館蔵)
- 岡谷繁実『名将言行録3』(岩波書店、1943、1944年)
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