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日本のホテルの歴史 リゾートから植民地まで

 日本における洋式ホテルの歴史は明治時代に始まりました。外国人が日本を訪れるようになったため、彼らが泊まれる近代的なホテルを作る必要があったのです。

 やがて、日本の近代化とともに資本家たちがホテル経営に乗り出していき、大都市や避暑地に洋風ホテルが建てられるようになりました。

 こうしてはじまった日本のホテル文化は、外国人のみならず、日本人にも広がっていきました。

東照宮の雅楽師からホテル経営へ・日光金谷ホテル

 日光東照宮の雅楽師だった金谷善一郎氏は、徳川幕府の瓦解(がかい)によって東照宮での仕事を失い、経済的に困窮していました。そんな時、金谷氏の将来を左右する、ある出会いがあったのです。

 ヘボン式ローマ字の開発者として有名なヘボン博士が日光で宿探しに困っていた際、金谷氏が自宅に泊めたことがきっかけとなり、外国人用のホテル「金谷カテッジイン」を始めました。

 ヘボン博士が日光へ避暑に訪れる外国人に金谷カテッジインを推薦してくれたこと、支援者があらわれたことで、金谷氏は日光に本格的な避暑地ホテル「日光金谷ホテル」を開業します。

 その後、日光金谷ホテルは100年以上にわたり、日光の地で営業を続けています。ホテルは日光東照宮のような神社の建築様式が使われており、擬宝珠(ぎぼし)を模した照明や、天女の彫刻がほどこされた柱など、東照宮の雰囲気がホテル内でも味わえます。

 宿泊客には、女性探検家・イザベラ・バード、チャップリンやヘレン・ケラーなど数々の著名人から天皇皇后両陛下まで、実に多くの人々が金谷ホテルに宿泊しました。

最新技術を導入・新大阪ホテル

 外国人向けのリゾートホテルが建てられてからしばらくして、東京や大阪、横浜など大都市にも洋式ホテルが建てられるようになりました。

 昭和14年に書かれた岡本かの子の『東海道五十三次』という小説では、主人公の学者の妻が、夫とともに名古屋のホテルに泊まるという記述があります。

 このころには洋式ホテルも身近になってきたのでしょう。

 中でも新大阪ホテルは、当時の最新技術をふんだんに導入した最先端のホテルでした。高温多湿の大阪の気候にあわせていち早く冷房設備を導入したほか、空気圧を利用して伝票を運ぶエアシューターなどもありました。

 他にも内線電話やチェックイン・チェックアウトの管理システムなど、当時としては画期的な技術が多く用いられているのが、商人の町・大阪のホテルらしいですね。

植民地観光の花形・幻のヤマトホテル

 戦前、日本の植民地だった満州(中国東北部)や朝鮮半島には、日本資本のホテルが数多く建てられ、ビジネスや観光に利用されていました。

 中でもヤマトホテルは、満州鉄道が経営していたこともあって、満州の主要都市に設けられました。本格的なフルコースが楽しめるバンケットルームのほか、宿泊者向けのランドリーなども完備され、現在のホテルと変わらないサービスが受けられたそうです。

 ヤマトホテルは、各界の著名人や芸能人も利用する格式の高いホテルで、男装の麗人として有名な女スパイ・川島芳子も旅順のヤマトホテルで結婚式をあげたり、女優の李香蘭なども宿泊していました。

 当時の芸能人は、現在ほどプライベートが守られていなかったため、ファンが押し寄せることもあり、ホテルは安全を確保するのに都合がよかったのです。

 戦前「半島の舞姫」として人気を博した現代舞踊家・崔 承喜(さいしょうき)は、日本の旅館ではファンが勝手に部屋に上がり込んだり、サインを求められることがあり、個室に鍵がかかるホテルを愛用していました。

 やがて戦争が訪れ、日本人が引き上げて行った後、ヤマトホテルは満州各地に打ち捨てられていましたが、一部は現地の人々によって再利用され、今も姿を留めているものもあるのだとか。

 今はなき幻の国の、幻のホテル。私は、過去の日本の侵略行為には反対しますが、こうした複雑な歴史を持つ建物には、なぜか強烈なノルタルジックを感じてしまいます。

まとめ

 先ほど挙げた日光金谷ホテルのほか、日本には創業100年以上のクラシックホテルが現存しています。

 そうしたホテルには創業からの歴史と、宿泊した著名な人々の名簿が展示されていることがあり、それらを見ると、実際にホテルが歩んできた時代を知ることができます。

 ただ宿泊するだけではなく、歴史を楽しむためにホテルに泊まるのも楽しいかもしれません。

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  この記事を書いた人
日月 さん
古代も戦国も幕末も好きですが、興味深いのは明治以降の歴史です。 現代と違った価値観があるところが面白いです。 女性にまつわる歴史についても興味があります。歴史の影に女あり、ですから。

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