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『吾妻鏡』で読む大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(13)頼朝の伏木隠れ

『鎌倉殿の13人』第6回「悪い知らせ」(2月13日放送)では、治承4年8月23日(1180年9月14日)の石橋山合戦で大敗を喫した源頼朝(演:大泉洋)が、小舟で海路を渡って安房国の豪族・安西景益(演:猪野学)を頼り、再起を誓うまでが描かれました。『吾妻鏡』に照らし合わせると、山中の逃避行(8月24日)から安西邸への到着(9月4日)までの10日間にあたります。

頼朝軍を破った大庭景親(演:國村隼)が、山狩りをして頼朝の行方を探すなか、景親の同族である梶原景時(演:中村獅童)が頼朝を発見します。しかし何を思ったか、景時は頼朝を見逃して命を救いました。頼朝はその恩を忘れず、勢力を巻き返して鎌倉入りを果たしたのち、景時を側近として重用するようになります。頼朝の人生最大の危機として、または鎌倉幕府で大きな権力を握ることになる景時の出世譚として、有名なエピソードです。

『吾妻鏡』8月24日条には、「時に梶原平三景時といふ者有り、慥(たし)かに御在所を知ると雖も、有情の慮を存じ、此の山には人跡無しと称して、景親の手を曳きて傍らの峰に登る」とあります。景時は頼朝の居場所を明確に知っていたにもかかわらず、武士の情けで見逃し、わざと景親を見当違いの方角へと導いた、という記述です。

ドラマでは、頼朝が隠れている洞窟を景時が発見したとき、大庭軍の兵士たちも別方面から洞窟の間近まで迫っていました。ところが雷鳴が鳴り響き、意気阻喪した兵士たちは洞窟に気づかぬまま引き返してしまいます。これを目の当たりにした景時は、頼朝が天に守られていることを感じて見逃したのだ――と、第7回「敵か、あるいは」にて語られました。

このドラマの描写は、おおむね『源平盛衰記』に基づいているといえます。それによれば、頼朝は「鵐(しとど)の岩屋」という谷の底にある、大きな伏木(ふしき=倒木)の、うろの中に潜んでいました。そこへ大庭景親と梶原景時が捜索に来て、景時がうろの中に入ります。頼朝は自害の覚悟を決め、刀に手をかけましたが、景時は「暫く相待ち給へ、助け奉るべし」と声をかけます。その代わりに、もし頼朝が勝利を収めれば恩を返してほしい。もし頼朝が討ち取られてしまっても、あの世から私を守護してほしい、というのです。

景時はわざと蜘蛛の巣を弓や兜にひっかけて外に出て、景親に向かい、誰もいなかったと報告します。景親は続いて中に入ろうとしましたが、景時は気色ばんで制止しました。私の捜索に手落ちがあるというのか、武士の面目をつぶすつもりか、とまくし立てたのです。景親がなおも念のために、弓をうろの中へ差し入れて探ってみると、その弓の先端が頼朝の鎧の袖に当たります。頼朝は息を殺して、ひたすら源氏の氏神である八幡神に祈っています。すると、うろの奥から、突然2羽の鳩が飛び出しました。

景親は、鳩が住み着いているほどならば人はいないのだろうか、と考えながらも、斧を取り寄せて伏木を叩き割ろうと言い出します。すると、晴れていた空がにわかにかき曇り、激しい雷雨となりました。こうして景親は捜索を断念し、念のためにうろの出口を岩で塞いで、景時を連れて立ち去りました。そのすきに、頼朝は中から岩を突き転がして脱出します。後で戻ってきた景親は、転がされた岩を見て、景時にたばかられたことを悟るのでした。

この『源平盛衰記』のエピソードは、「伏木隠れ」とよばれ、浮世絵などの題材として親しまれました。狐が稲荷神の使いとされているのと同様に、鳩は八幡神の使いとされています。したがって、鳩が頼朝の命を救う一助となったことは、頼朝が八幡神に守護されていることを暗示しているわけです。ドラマではこのような宗教的奇跡の連続のうち、雷雨だけを採用することによって、現代人にも納得のできるリアリティを演出していました。

続いて『源平盛衰記』によれば、山を下りた頼朝は、土肥実平の領地である土肥郷(神奈川県湯河原町・真鶴町)に潜みます。そこで頼朝は、三浦党が衣笠城を攻め落とされて安房へ落ち延びたことを知り、同じく安房を目指して、真鶴岬から船出しました。頼朝の脱出に気づいた景親の軍勢が真鶴岬へ押し寄せてきたのは、その直後のことで、間一髪の逃走劇でした。そして幸運にも、海上で三浦党の船と出会うことができ、一行は喜び勇んで安房へと向かう――という物語になっています。とはいえ、真鶴岬から安房までの距離は60km以上あり、三浦半島からの距離よりも3倍以上遠いので、三浦党よりも遅く船出した頼朝が海上で三浦党に出会うことは、まずありえないでしょう。

『吾妻鏡』によれば、8月27日に衣笠城が陥落して三浦党は安房へ向かいます。同日に北条時政・義時と岡崎義実も土肥郷の岩浦から船出し、海上で三浦の船と出会いました(これも、安房で出会ったと考える方が現実的でしょう)。翌28日に頼朝は土肥実平とともに真鶴岬から船出し、29日に安房国の猟島(千葉県鋸南町の竜島海岸)に上陸しました。

このように、実は、北条父子が頼朝よりも先に逃走しているわけです。ドラマでは、頼朝を放置して先に逃げてしまう北条時政(演:坂東彌十郎)がコミカルに描かれる一方、義時は主人公ですから、頼朝に忠実に付き従うよう改変されています。

こうして人生最大の危機を乗り越えた頼朝は、房総半島の豪族たちを味方につけ、奇跡的な再起を果たすことになるのです。

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  この記事を書いた人
愛水 さん

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